2019/03/14

固定残業代(みなし残業)の仕組み

固定残業代(みなし残業)の仕組み

固定残業代とは

固定残業代とは、毎月の残業時間にかかわらず、定額の残業代を支払う制度です

例えば、法定労働時間を超えた時間外労働が10時間あった場合、会社は10時間分の残業代を支払わなければなりませんが、固定残業代制度の場合、10時間の時間外労働がなかったとしても、毎月支払う賃金に10時間分の残業代を含めて支払います。

企業によって、みなし残業代、固定残業手当、みなし残業手当など様々な名称がつけられています。

固定残業代はあくまで見込み額を支給するものですので、実際の残業時間に応じて計算した残業代が固定残業代の額を超えた場合は、企業はその超過額を支払う必要があります。

しかし、固定残業代が認められるには厳しい条件があり、以下の項目を満たしていなければなりません。

周知の義務

まず、固定残業代で給与換算していることを会社は従業員に知らせる必要があります。これは、口頭で説明するだけではなく、就業規則などの書面できちんと周知させる必要があります。

今までの基本給は変えず、その一部を固定残業代にする企業がほとんどです。例えば、今までの基本給が25万円だったとします。それを基本給20万円にして、5万円を固定残業代にするので、実質貰える金額は変わらない。という説明を従業員に行い了承させる必要があります。

固定残業代と残業時間を明確に記載する必要

具体的に固定残業代の金額と残業時間を明記する必要があります。例えば「月給22万円(40時間分の固定残業代6万円を含む)」というような形です。

みなし時間と実労働時間の関係性

みなし時間が実労働時間より多い場合

あらかじめみなし時間として定められた時間に満たなかった場合、固定残業代として定められた金額は全額支払う必要性があります。ですので、残業時間が少ない月があったからと言って、固定残業代を減らすことはできません。

みなし時間が実労働時間より少ない場合

みなし時間を実際の残業時間が超えた場合、追加で残業代を支払う必要性があります。つまり、固定残業代を払っているからと言って、いくらでも残業していいことはなく、みなし残業時間を超えたのであれば、別途残業代を支払う義務が生じます。

固定残業時間の上限

あらかじめ決めておく固定残業時間には、特別に上限が設けられているわけではありません。つまり、固定残業時間に対し固定残業代が最低賃金を上回っていればその月の残業時間については問題ありません。

しかし、1年を通してみると36協定の関係で上限は45時間までに設定されていないと、労働基準法違反の疑いもあります。

働き方改革 参考記事

固定残業代のメリット

時間外労働の抑制につながる

固定残業代制度は、長時間残業の抑制につながることもあります。

「30時間分の固定残業代」がある場合、10時間の残業でも30時間の残業でも、手当額は同じです。そうであれば「無駄に残業時間を長引かせず、テキパキ仕事をして早く帰ろう」と思う従業員も少なくないはずです。結果、従業員の仕事の能率が上がり、時間外労働の減少、労働生産性の向上にもつながっていくと考えられます。

人件費の把握がしやすくなる

仮の残業時間を想定して浮動的な計算をするよりも、固定残業代をあらかじめ給与に組み込んで考えた方が、人件費の計算がしやすくなります。

労働者の収入に安定が見込める

固定残業代が正常に機能していれば、残業が少ない月でも安定した収入が見込めるし、残業が多く固定残業代制で設定された時間を超えた月は、上乗せで残業代をもらうことができるという大きなメリットがあります。

固定残業代が違法になるケース

固定残業代制は労働者と会社側どちらにもメリットの有る制度です。しかし、固定残業代制を悪用する企業が増え、固定残業代という言葉自体悪いイメージになってしまいました。

定残業代の金額・時間の記載が不明確

固定残業代制度を運用する場合には、「通常の賃金と固定残業代」「通常の労働時間と固定残業時間」を明確に区分し、労働契約書などに記載する必要があります。

例えば「基本給16万円※固定残業代5万円を含む」を「基本給22万(一部、固定残業代を含む)」など、固定残業代を基本給に含めて表記を行った求人は無効になります。

また、就業規則や労働契約書の表記が、「年俸には固定残業代を含む」「業務手当は固定残業代の性質がある」といった曖昧な文言である場合、固定残業代の割増賃金としての性質が認められない可能性があります。

超過分の残業代を支払わない

固定残業代を支払っていても、対応残業時間を超えて残業をさせた場合は、超えた分の残業手当の支払いを行う必要があります。

40時間分の固定残業代が設定されている会社で、45時間の時間外労働をしたら、5時間分は別途時間外手当を支払わなければなりません。この5時間分を支払わないと、残業代未払いの扱いとなってしまいます。

「固定残業代制度だから、いくら働かせても追加の残業代を支払う必要はない」というのは完全に違法です。

労働時間管理がされていない

固定残業代制度を導入している会社でも、従業員の労働時間管理は必要です。固定残業時間を超過した残業については別途手当を支払う必要がありますし、労働者の安全衛生の観点からも労働時間管理は必ずする必要があります。

平成29年7月、固定残業代運用下でも労働時間の適切な把握が必要である通達がなされてます。

固定残業代を設定した結果、最低賃金を下回った

現在の給与総額を変えずその中に固定残業代を設定する場合は、給与単価が低下します。その結果、最低賃金を下回ってしまうことがあります。最低賃金額は都道府県によって異なるため、事業所が複数ある会社の場合は県ごとの最低賃金チェックをする必要があります。

周知義務を果たしていない

固定残業代制度を導入した場合、個別の雇用契約書や就業規則に内容を明示する必要があります。

就業規則により固定残業代制度を明示する場合、就業規則自体が変更され所轄労働基準監督署への届出がなされていても、従業員への周知が行われていなければ、その就業規則は効力が認められません。

働き方改革 参考記事

まとめ

固定残業代を採用・運用する場合は、通常の賃金部分と固定残業代部分を明確に分ける必要があり、また固定残業代を導入している場合でも、固定残業時間を超えた残業に対しては、別途割増賃金を支払わなければなりません。

固定残業代は、適正な運用を行わないと効力が否定され、残業代の未払い分の請求など大きな損害を受けることがあります。